総裁ひとり旅(上海出張編)-1

 


何かを予感させるホテルからの眺め

迷いはホテルのカーテンを開けたときに

上海である。

今回の訪中はあくまで会社の仕事による出張である。言うなれば「総裁」としてではなく、ひとりの男としての訪中だ。 空港からホテルのまでの間、あちらこちらにその勇姿を見せる上海の団地に否が応でも団地巡りへの期待は高まる。いやしかし、今回の俺は総裁じゃない。ひとりのしがないサラリーマンとしての訪中だ。いや、ここで団地を巡らなくてどうする。いやいやしかし。

率直に言おう、業務としての出張だろうがなんだろうが、毛頭団地巡りをためらう私ではない。不安だったのだ。Nがいない団地巡りははじめてなので。巣立ちを前にした小鳥はこんな気分なんだろうか。

そんな私に吹いた大陸の臆病風も、ホテルの部屋から見えたこの眺めで一変だ。いまは亡きNのためにもここでがんばらなくてどうする。ここで男を見せてこそ「総裁」だぞ!、と。

 

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