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| 「下町だね」
「そうだね。町並みも典型的な下町だ」 「典型的な下町って長屋が並んでるとかそういう感じかと」
「そりゃ時代劇の見すぎだ」 「そうなんだけどさ。じゃあ下町の定義ってなによ」
「…やっぱり、人情じゃない」 「そうきたか」 「団地マニアにとっての下町とは。これは大きな問題だよ」
「別に問題じゃないよ」 「下町における団地というものをどうとらえればよいのか」
「やはり団地は郊外にこそあってほしい気がするけど」 「そうそう、団地に人情なんてとんでもない」
「いや、そうは言わないけど」 「ましてや、ふれあいなんて」 「やめなさい」
「『ふれ愛』ならいいけど」 「もういいよ」 「そんな団地マニアのとまどいをよそに」
「この団地は実に団地らしいいい形をしているよ」 「ああ、まったくこの団地には頭が下がるね」
「自分を見失っていない」 「いろんな意味で、立派なやつだ」
「たぶん『下町』に過剰に意味を求めすぎているんだよね」 「そうそう『散歩の達人』とか『東京人』の特集を見てさ」
「また辛口トークが始まりそうだぞ」 「下町巡りに胸躍らせてる人をここへ連れてくるべきだよ」
「意味のない嫌がらせはやめなさい」 |
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「団地のメッカ、
新浦安にやってきました」 「きみ、光が丘でもそんなこと言ってなかったか?」
「なんだ?千葉を馬鹿にしてるのか?」 「いや、誰もそんなこと言ってないじゃん」
「東京ディズニーランド、略してTDLが近いんだぞ」 「馬鹿にしてるのはきみの方だ」
「じゃあこうしよう。団地のディズニーランド新浦安」 「そこらへんでやめとけ」
「いや、公団や民間や色んなタイプの団地があってさ」 「たしかに光が丘や高島平とかよりバリエーションがある」
「それ、すなわち、まさに団地のテーマパークだよ」 「それ、今言ってて思いついたね」
「さしずめこの団地はトゥモローランドってところだ」 「公団のあか抜けなさに比べると民間のものはそつがない」
「トゥモローランドはTDLの中で一番あか抜けないけどね」 「あ、またそういうことを」
「でも公団のあか抜けなさは好きだよ」 「本当はこれなんかよりコジャレてるんだけどね」
「よく見ると完成度高いんだよね。公団は」 「でも、なんとなく、こう、スキがあるんだよね」
「俺を誘ってるのか?って気になるよね」 「なんないよ。ふつうは」
「ついついそれでみんな団地マニアになっちゃうんだよね」 「なんないって。ふつう」
「団地のハシゴしたりして」 「しないって」 「で、何軒目かでぐでんぐでんになってクダ巻くんだよ」
「なんで酔ってんだよ」 「酔いしれる、と言ってほしいな」 「キレイにまとめてどうする」
|
| 「生きてて良かったと思
える瞬間って、そうないよね」
「なに。突然」 「いや、これ。すげえステキ」 「うん。いいね」
「都営ならではの、なんていうか、h独特の魅力があるね」 「ちょっと『ワル』な感じだよね」
「彫りが深い」 「都営の特徴の一つだよ」 「色も、公団には見られない色だよね」
「あとはなんと言っても」 「庇だね」 「庇だよ」
「なんで中途半端な位置に二つついているのか」 「落下物防止のためなんだろうけど…」
「それにしては位置がねえ」 「よく分かんないよね」 「もしかしてオデキの一種なのかなあ」
「あー」 「公団から、種をまたがって受け継がれた形態の特徴として」 「突然変異みたいなものか」
「それにしてもすてきだなあ」 「なんか、すごく気に入ってるねえ」 「これ、プリントして部屋に飾っとこう」
「…家族が心配するぞ」 |
| 「っ
てゆうか、でかすぎ」 「なんか、安っぽいSFにでてくる宇宙基地みたいだ」
「ホワイトベースとかね」 「エレベータータワーのアールがそう感じさせるのかも」 「この白い色とかね」
「どう?気に入った?」 「うーん、微妙だなあ」 「そうだよねえ。なんでかなあ」
「特殊すぎるからじゃない?」 「そうだね。これに似たものが今後いくつか発見できれば」
「団地って、絶対評価じゃないよね」 「そうそう。似たようなものの中に違いを」
「そして違いの中に共通したものを」 「その発見の喜び、それが団地の正しい鑑賞法なのだよ」
「誰に向かってリキんでるんだか」 「つまりグフよりザクが好きってことだよ」 「なにそれ」
「いや、だからさ、量産されてなんぼ、って言うか」 「よく分からん」 「シャア専用なんて論外だよ」
「もういいよ」 「だって赤いんだぜ?」 「論点がずれてる」
|
| 「西葛西の団地密度には感服するね」
「どこまでいっても団地がでてくる」 「でも、住民はこんなに団地があるのに」 「あぁ、 の
んきに手間の公園でバーベキューとかしている」 「 目移りしている僕らと違って冷静だね。」
「やり場のない感情をバーベキューで表現しているのかも」 「そんなバーベキューなら参加できる気がする」
「しかし、肉食う前に僕らにはすべきことがあるんだよ」 「突然使命感に駆られて。たかが団地写真の撮影だろ」
「なんてこというんだ、きみは」 「だって、死んだばぁちゃんが言ってたよ」 「なんて」
「いつ戦争が始まるかもしれない、先に食事しなさいって 」 「戦争が始まったら団地だって壊されちゃうぞ」
「平和を願う思いってこんなのがきっかけになんのかな」 |
| 「これも決して典型
的というものではないんだけど」 「公団なんかと比べると、特殊な感じがするよね」
「かわいいカラーの屋根」 「外壁は漆喰を左官屋が手で塗ったような処理」 「かわいらしいよね」
「お城っぽい」 「各戸のドアもカラフルだし」 「窓の上にもカラーの屋根がついている」
「でも全体はかなりマッシブなんだよね」 「ダイナミックな『コ』の字型だし」
「右ウィングのテーパー処理が大胆かつ繊細って感じだな」 「ああ、階段の食い込み具合も画期的だ」
「全体に対する階段の色のバランスもいい」 「マッシブだけど、やけにかわいらしい装飾」
「ピンクハウス着ているおんなのこもそういう感じだよね」 「あー、また。そういうこと言うなって」 |
| 「クラスにみんなのあこがれの女の子っていなかった?」
「いたね」 「だけど、本当に素敵な女の子っていうのはさ」
「そういうみんなの注目を集める子じゃない、と」 「意外と目立たない地味な女の子がすごく素敵なのさ」
「分かるけど、何の話だ」 「だからさこういう地味な場所にこそ素敵な団地がある」
「高島平とか光が丘とかでなく、ってことか」 「その通り。きみも分かってきたねえ」
「確かにこれは良いねえ。君の喩えはともかくとして」 「典型の中にしっかりとした独自性がある」
「エレベータータワーとか個々のデザインは典型だけど」 「全体の雰囲気に、他では得難いものがある」
「なんといっても、こういう黄色は初めてだね」 「下品になりがちな色だが、うまいことまとめている」
「タワーの一部が壊れているみたいだよ」 「いやいや、あれはわざとだよ」 「そんなわけないだろ」
「いうなればチラリズムだよ。僕らを誘っているのさ」 「地味で素敵な女の子はそんなことはしないと思うけど」 |
| 「やに駅から近いな。この団地は」
「京葉線検見川駅からでたら目の前が団地」 「でも家からここまでは1時間以上はかかったよ」
「近そうで遠い存在とはこの団地のことだね」 「僕らにとって大人なみたいなものかな」
「三十近いのに週末ごとに団地に通って眺めてはニンマリ」 「確かにまっとうな大人ではないな」
「かといって、少年の心を持ち合わせている訳でもない」 「ないよ。そんなモノは。でも『週末は団地になる』」
「スキューバダイビング雑誌のコピーにそんなのあったな」 「『週末は魚になる』だろ」
「無理矢理マリンとの接点を見つけようとしてないか」 「やっぱりマリンに近づき難いな、むしろその溝は深まる」
「そもそも団地にマリンの名を付けるのには無理がないか」 「分かってないな。ないモノねだりなんだよ、団地の」
「団地にはない爽やかなイメージ?それがマリンなんだ」 「マリンがいいかはさておき、いじらしいじゃないか」 |
| 「この団地はどう?」
「でかいねえ」 「右半分がなぜか引っ込んでいる」 「よくあるよね、こういうの」
「のっぺりしがちなテクスチャに対する配慮だね」 「違うと思うけど」
「でも、そのおかげで味わい深い仕上がりになっているよ」 「その切返し位置が真ん中っていうのは珍しいね」
「そうだね。団地ってなぜかアシンメトリーだよね」 「これも、切り返しの位置は真ん中なんだけど」
「エレベータータワーが中央じゃない」 「その点、セオリー通りだ」
「陽明門もシンメトリーを崩すように作ってあるらしいよ」 「陽明門って、日光のあれ?」 「そう」
「また、そうゆう嘘臭いウンチクを」 「嘘じゃないって。日本人の伝統的美意識が、さ」 「伝統的美意識が?」
「こうやって団地のデザインにまで受け継がれているのさ」 「また大きくでたね」
「ということでこの団地を『江戸川区の陽明門』と呼ぼう」 「またそんな勝手な」
「日暮門と呼ばれている点も団地に通ずるものがあるよ」 「は?」
「一日中眺めていても飽きないことからそう呼ばれている」 「そんなの、ぼくらだけだって」
「あとは国宝になるのを待つばかりだな」 「それはない。絶対」 「じゃあ、世界遺産」
「もっとない」 「しょうがないな、日本の名水100選でがまんするよ」 「なんでだ」 |
| 「これはちょっとぼくらの収集範囲外かもね」
「と言うと?」 「いや、これ、たぶん80年代じゃない?建てられたの」
「うーん、確かにデザインは80年代の家電っぽいよな」 「びみょうだね」
「でも、たとえば雨樋の円筒状のデザイン処理なんかが」 「70年代の公団でもみられるものなんだよね」
「あと、右端に縦書きで書いてある団地名も」 「フォントが70年代っぽいんだ」
「縦書き、ってところもね」 「きらいじゃないよ」 「うーん、ぼくもきらいじゃない」
「スキ、って素直に言えよ」 「団地マニアとしてそう言ってしまって良いものだろうか」
「そうだな。言ってしまったらもう戻れないかもしれない」 「戻れないって?」
「まっとうな団地マニアに」 「『まっとうな団地マニア』ってなんだ。禅問答か」 |
| 「なんかこう、『ワル』な感じの団地だねえ」
「公団には見られないデザインだ」 「強面というか」 「これはこれで好きだな」
「そうだね、必ずしも『典型』ではないけれど」 「変わった団地を集めるの本意ではないんだけどね」
「典型の中に違いを見いだすのが団地趣味の正道だよ」 「『団地趣味の正道』って何だ。二律背反か」
「まあ、中にはこういうのもあるっていうことを、さ」 「ことを?」
「皆さんには肝に銘じていただきたいという意味であえて」 「そんな迷惑な」 |
| 「いい場所にあるね」 「そうだね。プールサイドだから撮りやすい」
「濡れた髪を掻き上げれば、そこに団地」 「そういうことか」 「息継ぎで顔を上げるとそこに団地」
「わかったわかった」 「やっぱり夏といえば団地だよね」 「そんなの聞いたことない」
「団地もあんなに褐色に日焼けしちゃって」 「そうじゃないでしょ」
「でも通路から水着の女の子を覗く不届きな輩もいるかも」 「プールサイドで三脚立ててる人間に言われたかない」 |
| 「看護婦さん、好き?」
「しょっぱなから飛ばしてくれるね。何なのさ」 「やはり看護婦さんは『白衣の天使』であって欲しいよね」
「だからなんの話なのさ」 「ピンクの白衣って、あんまり好きじゃないんだよねー」
「『ピンク』の『白衣』って時点で破綻してるしね」 「そんな言葉尻はいいんだよ。俺は今真剣な話をしている」
「あー、はいはい。そりゃすまなかった」 「色は意味であり機能なのだよ。伊達や酔狂じゃねえんだ」
「なぜ江戸っ子。つまりこの団地の色は気に入らない、と」 「べらぼうめ。すっとこどっこい。あたぼうよ」
「だからなんで江戸っ子。最後の意味わかんないし」 「でも、そう思わない?」
「そうだね。団地マニア向きじゃないね。典型じゃないし」 「でも看護婦ってだけでドキドキしちゃうのもまた事実」
「そうかなー」 「団地ってだけで、ついつい手を出しちゃうんだよね」 「そうだねえ」
「で、翌朝、後悔するのさ」 「翌朝?」 「いや、この前の合コンでもさー」
「合コンなんてやったことあるの?しかも手を出した?」 「あああ、あたりまえじゃないか」
「そこで『あたぼうよ』って言わなきゃ。動揺してるし」 |
| 「豊
洲周辺にはなかなか個性的な団地が多いね」 「ぽつぽつと点在していて、なかなか歩かせる街だよ」
「団地巡って歩いちゃうのは僕らだけだけどね」 「これも見落とされがちな場所にあるよ」
「そうだね。造形も、一見地味な感じだし」 「でもね、これが見てると味が出てくるんだよ」
「じわじわとね」 「団地アシンメトリーの法則の見本のようだ」 「法則だったのか」
「しかも左右で階数が違うというのはなかなか大胆だ」 「左右の階段室のマッシブな造形もいいね」
「好きな団地は枝川、って言ったらそいつはプロだよ」 「いったいなんのプロだよ」
「そんな女の子がいたらなあ。ぼくの理想のタイプ」 「嫌だな、そんな女の子」
「君の趣味は変わってるからねえ」 「あんたに言われたくない」 |
| 「これはちょっとどうかなあ」
「そうだね。団地、というよりマンションに近いね」
「あまり好きじゃないな」
「具体的にどこが気に入らないかと問われると困るが」
「そうだね。実に微妙だね。団地趣味は」
「団地マニア以外には違いが分からないかもね」
「つまり真の団地マニアかどうかの試金石だよこれは」
「誰を試すんだよ」
「これを好きというようじゃまだまだだね」
「よくわからんが、なんだか偉そうだな」
「ま、いい線行ってるし、がんばってるようだけどね」
「だからなんでそんな高飛車なんだか」
「いや、ここで後輩達には厳しくしておかないと」
「なんのために」
「優秀な団地マニアを育てるために心を鬼にしてだな」
「だから、後輩達なんていないんだって」 |
| 「か
なり充実したエレベータータワーだね」
「そうだね、ここまで出っ張っているのも珍しい」
「しかし、鼻っ柱の強そうなタワーにもかかわらず」
「なぜかとてもかわいらしい仕上がりになっているよね」
「全体の大きさもなかなか可愛いよ」
「タワーの縁取りといい、全体のカラーリングといい」
「かなりポップなデザインだね」
「コジャレ系の女の子にウケそう」
「それはない。だいたいコジャレ系の意味分かんないし」
「たぶん、一澤帆布製のカバン持ってる子とかだよ」
「うわ、やな感じにリアルだな」
「で、スニーカーはパトリック」
「あー」
「lomoのカメラ片手に路地裏を撮影したり」
「そこらへんで。それ以上は言わないほうが」
「で、『あるある会員』なの」
「それは全然コジャレてない」 |
| 「春
江町住宅シリーズ第2弾」
「2号棟と同じデザインでいて、全く別の表情を魅せる」
「その『魅』はいかがなものかと」
「『住宅公社が、魅せます』とか」
「とか、って言われても」
「『春江ちゃんがここまで魅せた!』とか」
「別のコピーになってるし。だいたい春江ちゃんて」
「今年はお芝居や歌にもチャレンジしてみたい、とか」
「だからなぜB級アイドルに擬人化してるんだか」
「いや、グラビア以外でも才能あると思うよ、春江たん」
「『たん』はやめなさい」
「『男性が自宅にお泊まり?』のスキャンダルがなければ」
「そんなスキャンダルがあったのか」
「いろんな人が出入りしてて、ちょっと節操無いんだよね」
「そりゃ団地だからねえ、春江ちゃんは」 |
| 「い
かにもスキップフロアという感じの物件だね」
「そうだね。縦横比とか。スキップフロアの典型だね」
「ちょっとスキップフロアも試したい、という人に最適だ」
「試したい、の意味が分からない」
「スキップフロアの王様大谷田団地がホールケーキなら」
「この団地はその一部を切り取った1Pだと」
「そう。言わば『スキップフロアお試しキット』だよ」
「こんどはキットときましたか」
「あなたのお肌のタイプにあわせたスキップ一週間分」
「お肌は関係ないよね」
「母と娘が選んだスキップフロアランキング第2位!」
「やな親子だな。ていうか第2位て。中途半端な」
「1位は大谷田団地だからね」
「なんで今回はケーキとかコスメに喩えようとするのさ」
「そろそろ女性向けのマーケティングも、と思って」
「マーケティングて。ところでこの団地気になる点が一つ」
「なんだね。言ってみたまえ」
「エレベータータワーとは別にもう一つタワーがあるよ」
「あっ!しーっ。それについてはふれちゃダメだよ」
「なんでさ。なんなの、あれ」
「ほんとはあれにはモザイクをかけたかったんだけど」
「なんでだ。そういうブツなのか。あれは」
「あるいは★のマークで隠すとか」
「やりかたが古い。ていうかぜんぜん女性向けじゃない」 |
| 「こ
れも大阪からお届けする物件です」
「我々もどんどん首都圏以外に進出していかないとね」
「お、やる気だね」
「もちろんさ。もう、大阪分かったから。まかせてよ」
「団地めぐりばかりでアメ村すらも行ったことないじゃん」
「あのオシャレグッズがいっぱい売ってるところでしょ」
「ほほう。行ったことあるの」
「バッタもんのナイキとかジッポとか海産物とか聚楽とか」
「きみが何と混同しているのかはよく分かったよ」
「ところでこの物件、かなりステキだね」
「巨大さといい、ポップなツートンカラーといい」
「主張のあるひさしのデザインもすばらしい」
「全体のマッシブさに、このひさしの大胆さは正解だよ」
「年間ヒット番付の西の横綱がこれだったのも納得だ」
「よしんばそうだったとして、その場合東の横綱はなにさ」
「ハリーポッターだったじゃん」
「なんでそこは素なんだか」
「目立ったオデキとかがないのが少し不満だけど」
「そうだね、ちょっと整いすぎている感じはあるね」
「ちょっとした飾り物を買ってきて取り付ければいいのに」
「なんだそれ。どこで何を買うのさ」
「え、二木ゴルフとかに何かあるでしょ」
「きみ、混同してるから。ぜんぜん大阪分かってないから」 |
| 「こ
れは珍しい物件だね」
「そうだね。低層階部分が市営バスの操車場だ」
「ちょっとした団地界の生麦事件だよね」
「絶対それを言うと思った」
「珍しさを云々するのは団地鑑賞としては邪道だけど」
「そうだけど。まあ、たまにはこういう物もいいでしょう」
「ただ、古び具合とかタワーの造形なんかは極上だよ」
「そうだね。ひさびさに団地の重厚さを堪能したよ」
「最近はちゃらちゃらした団地が多いからね」
「建築界はこういう作品をちゃんと評価して欲しいものだ」
「期待できないね。いっそ、別の業界にお願いしようか」
「他の業界って、たとえば」
「まあ、操車場ということもあり、自動車業界あたりに」
「ありえない」
「団地としては初のカー・オブ・ザ・イヤー受賞」
「明らかに言葉の響きに惹かれてるだけでしょ」 |
| 「生
麦から続いて鹿児島とは」
「歴史をたどる旅、みたいでしょ」
「結局たどってるのは団地なんだけどね」
「おそらくこれは最南端の高層スキップフロアだね」
「最南端さを全く感じさせない見慣れたテクスチャ」
「色使いといいタワー上部の処理といい」
「ひさしのバランスも、いつも通り、って感じだ」
「浮かれたリゾート気分の団地マニアに一喝だね」
「団地はいつでもどこでも自然体ってことだよ」
「自然体て」
「自分探しの旅に出てたどり着いた本土最南端の地で」
「きみ、『自分探し』が好きだね」
「この団地を見て気づいたのさー」
「なんで歌ってるの?」
「ぼくがぼくであることをー」
「はいはい」
「なんで歌の歌詞って語尾が『〜のさ』なんだろうね」
「最南端でも君はいつも通りってことがよく分かったよ」
|
| 「きれいなブルーの団地だね」
「深い海の底から海面を見上げたような美しいブルーだね」
「そりゃ言い過ぎだ」
「よく見ると色んな色調のブルーが混じっている」
「そうだね」
「高価な天然のラピスラズリを使っているかららしいよ」
「どんな団地だ」
「モザイクのような煌きが人魚の涙のようだ」
「なんだそれ」
「滑らかで、どこかはかない悲しいほど美しいブルー…」
「わかったわかった」
「次の世代へ伝えたいブルーだね」
「意味分かんない」
「マリッジ・ブルーってやつかもね」
「違うね」
「若者達のドラッグと性を描いた第75回芥川賞のブルー」
「それはもっと違う」
|
| 「これもまた議論の分かれる団地だね」
「住民の方々には申し訳ないが団地としてはもうひとつだ」
「なんせ名前がグリーンだから」
「そういう浮ついた名前は団地には似合わないよね」
「よくあるのは、グリーンとか名乗っておきながら」
「建物本体は煉瓦造り風だったりしてどこがグリーンだと」
「で、結局公園の木々が豊かなだけだったりとか」
「しかしこの団地はグリーンがイメージワードで終わらず」
「実直に実際の色として緑が使われている点は評価できる」
「しかもそのグリーン使いが画期的」
「スキップの廊下部分にグリーンを持ってくるとは」
「スキップフロアの特徴である廊下の出っ張りを緑で主張」
「団地マニアが思ってもみなかったスキップ活用術だ」
「こういうアピールにグリーンを使うとは穏やかじゃない」
「敵ながら天晴れだ」
「ちょっとしたグリーン・ディスティニーだね」
「なんだそれ」
「カンヌで特別上映、壮大なスケールのファンタジー団地」
「やなカンヌ映画祭だな」
「市川のチョウ・ユンファと言っても良い」
「それはほめ言葉なんでしょうか」
「要するにB級」
「誰に対して失礼なのかだんだん分からなくなってきた」
|
| 「これ、公団団地に見えて、実は川崎製鉄の社員住宅です」
「でもかなり公団っぽい。社員住宅の域を越えている」
「ここまで大規模団地然とした社員住宅って珍しいね」
「その大きさに、在りし日の製鉄業の活況が偲ばれますな」
「かなり団地の形態研究がなされているよね」
「エレベータータワーの位置が中央でないこととかね」
「団地をモティーフにすることで栄華を表現したわけだ」
「そんな表現技法聞いたことないし、モティーフて」
「成金アメリカ人が城を模して家建てるみたいなものだよ」
「団地にそんな象徴性があるとは知らなかったよ」
「いわば栄華を表現するイデオムとしての団地」
「イデオムて。意味分かってるのかなこの人」
「あるいは栄華のアフォリズム」
「わかったわかった」
「またはアレゴリー」
「もういいってば」
「鉄だけに、アレゴリー」
「意味わかんない」
|
| 「名古屋には良い団地があると聞いていたけど」
「噂通り、いや、噂を上回る質と量」
「この大曽根周辺はちょっとした団地ベルト地帯だよ」
「そんな団地群の中でもこれは一番の熟れ具合を見せてる」
「熟しきった、という風情だよ」
「色もまるで渋柿のような褐色」
「さながら往年の名女優の晩年、って感じだね」
「しかも博品館劇場で独り芝居とかやるタイプの」
「非常に分かりづらいたとえだね」
「ユニセフの親善大使になってみたり」
「あきらかに特定の人物を想定してるよね」
「住宅に喩えるなら巨大な文化住宅ってところだ」
「喩えるの意味を拡張したよこの人」
|
| 「おちついた色合いの団地だね」
「シンプルで力強い造形をしている」
「縦方向の梁の無骨さが特徴だね」
「ありそうでなかったタイプ」
「しかし、希少性は高いがあまり心高鳴る団地じゃないね」
「名古屋へわざわざ来てみるべきものかというと」
「あまりお勧めではないね」
「住民の方にはほんと失礼な話ですけど」
「近場にあったらぜひ鑑賞したい物件ではあるけどね」
「まあ、名古屋名物に喩えるならあんかけスパゲティだな」
「なにそれ」
「きしめん、てんむすに並ぶ名古屋名物らしいよ」
「どんなものなの」
「なんでも太めのパスタにちょっと辛目のアンが」
「評価が分かれそうな食べ物だね」
「何でもアンかければそれなりだからね。卑怯だよ」
「それなりなのか。なにそのアンへの絶大な信頼感は」
「あとぼく猫舌だからアン苦手」
「論点がずれてきた」
|
| 「コーポ、って感じだね」
「そうだね。団地として扱っていいものかどうか」
「とはいえ、マンションと呼ぶには、まだ早い」
「そのどっちつかずな感じがコーポの魅力というところか」
「しかし確実に団地へ近づこうとしている」
「団地への情熱いまだ冷めやらぬ、といったところですね」
「コーポから団地への熱いラブコールと解釈したい」
「見所はこまめに配置されたタワーだね」
「かわいらしいよね」
「落ち着いた褐色のカラーリングには好感が持てる」
「淀川沿いの意欲作という結論でよろしかったでしょうか」
「なんか、きょうは結論をいそいでいるけど」
「いやさっき職務質問されたのがこたえて」
「大阪へきて初の通報だったね」
「これを今後の団地めぐりへのバネとしたい」
「いやいや、バネじゃなくて自粛しなさいよ」
|
| 「こ
の団地、ずいぶん前に撮影した物なんだけど」
「なぜかお蔵入りになってたよね」
「実はあまり好きじゃなかったんだよね、これ。だから」
「そうなの?悪くないと思うけど」
「私情を挟んではいけないと思いつつ、つい。すまん」
「そんなことで謝られても。挟んでいいよ、私情」
「段々になってる部分とか、なんか好きになれなかった」
「あー、そうだね。好みが分かれるところだね」
「でも、いまのぼくはもう違うよ!」
「違わなくてもいいよべつに」
「すらりと伸びたタワー、褐色の肌」
「うん、団地らしいカラーリングと古び加減だよ」
「なんでみんな良い良いって言うのか分からなかったけど」
「だれもそんなことは言っていないと思われます」
「興味ないよねー、とか言ってた同期のアイツまで」
「同期ってだれさ」
「つまり、私も最近やっとゴルフはじめました、って感じ」
「うわー、うさんくさいなー」
「ナイショーッ」
「こんなところで大声出さないでください」
|
| 「たしか京都の物件をご紹介するのは初めてかと」
「そうだね」
「日本を代表する古都だけに団地紹介も慎重になるよね」
「やはり京都人だと団地マニアも気むずかしいらしいし」
「団地撮ろうとしたら箒が逆さまにしてあったということも」
「ほんとかよ」
「あったとかなかったとか」
「怒られるよ、京都の人に」
「この物件は京都駅のすぐそばにある団地ですが」
「細部を見ると良い感じなんだけどなんかそそられない」
「いやいや、そんなことないよ。なかなかのものだよ」
「せめて左右に分かれてなくて一棟だったらなあ」
「まあまあ、京都には京都の美意識があるから」
「なんかみょうにかばうね」
「まあ、よそさんやし、しゃあない」
「なんだよ、京都に遠慮してんの?」
「そんなことないよ」
「だって、色とかも典型に見えてなんか微妙だし」
「そう言わはるんやったら、そなんちゃう?」
「なんか、むかつくんですけど」
「ああ、怖い、怖い」
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| 「また大阪の団地をご紹介」
「典型的な団地造形ではないけど、なかなか良いね」
「まずこの大きさがとてもよい」
「かなり大きい」
「中央のエレベータータワーの造形も意欲的なデザインだ」
「さえない褐色も淀川土手によく似合う」
「けっこう古いんだよね」
「71年生まれらしいよ」
「一時期大阪万博が再評価されてたけど」
「これに比べれば万博なんて、ねえ」
「再評価のしどころが間違ってるよ」
「そこらへんが現在の大阪市の財政難の原因かもね」
「それはないね」
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